東京地方裁判所 昭和34年(ワ)8428号 判決 1966年2月28日
原告財団法人
東京水交社
代表者清算人
初見盈五郎
同
今村了之助
代理人
柳井恒夫
同
斎藤直一
同
沢誠二
同
亀岡孝正
被告
東京メーゾニツク・ロツジ協会
代表者代表清算人
小松隆
被告
財団法人東京メソニツク協会
代表者理事
ジヨージ・ビイ・モーグリス
被告両名代理人
長野潔
同
中村豊一
同
佐藤庄市郎
同
松井元一
被告両名補助参加人
国
右代表者法務大臣
石井光次郎
右指定代理人
川井重男
外一名
主文
原告の被告らに対する請求は、すべてこれを棄却する。
訴訟貿用は、原告の負担とする。
事 実<省略>
理由
第一、原告の当事者能力の存否
原告が昭和二〇年一二月三一日解散して清算法人となつていたところ、同二一年八月二九日、同年勅令第一〇一号第四条第一号(イ)、第二条の規定に基く内務省告示第一二四号を以て、右勅令のいわゆる解散すべき団体に指定された結果、右勅令による解散をしたことは当事者間に争のない事実であるが、ここでまず原告がこの解散により直ちにその法人格を喪失するに至つたか否か、したがつて、現在当事者能力を有すか否かについて検討する。
一 総司令部は、昭和二一年一月四日附覚書(AG〇九一)を以て、日本政府に対し、軍事的又は準軍事的訓練の実施、元陸海軍人たりし者に対する同等の民間人以上の恩典供与、又は特種の発言権附与、或いは日本国内に於ける軍国主義又は尚武心の保全其他一定の占領目的に反する団体又は個人の一切の活動を禁止し、(第一項)、右のような活動を目的とする団体を解散させ、(第二項)、かかる団体の自己の財産に関する取引を阻止し、その財産全部を接収保管す(同項)べき旨を指令し、日本政府は、右党書に基き、同年二月二三日公布の勅令第一〇一号によつて、同旨の活動をなす団体の結成を禁止し(第一条)、かかる団体に該当するものとして法務総裁が指定する団体は解散することとして(第二条)、かかる団体が自己の資産に関する取引をなすことを禁止し、その資産を接収保管するものと定めた(第三条一、二項)。而して、これらの措置の主たる目的は、明らかにポツダム宣言第六項の実施、即ち、軍国主義的権力および勢力の除去にあるものと解されるから、軍国主義的諸活動を現在および将来にわたつて排除できれば足り、そのためには、かような活動をなす団体の新たな結成を禁止し、既存のそれを解散させ、さらにその資産を接収すれば充分であり、かかる団体が法人の場合に、解散による清算が結了するまで清算の目的の範囲内でこれが存続することまで禁ずる程の要請は含まれていないと考えられる。とすれば、上記の覚書および勅令が、そのいわゆる「解散」にとくに通常と異る意味を持たせ、民法第七三条の適用を排除して、この解散においては、直ちに法人格を消滅させ、清算法人としての存続すら許さない趣旨を定めているものとは解し難い。
二、ところで、さらに、上記勅令により解散された団体の財産の管理処分等については、総司令部は、昭和二三年三月一日附覚書(AG三八六・七)を以て、日本政府に対し、解散団体所属の一切の財産の権利を日本政府に同日附で移転し(第四項)、日本政府においてこれを売却し、(第六項)、解散団体財産収入金特別会計を設定して、解散団体からの収入およびその財産の清算による売得金はすべてこれに繰り入れ(第九項)、右会計に預け入れられた資金を利用し、これを一般会計に繰り入れ、承認された債務の支払総司令部の承認をえた解散団体の清算に関する処分のために利用す(第一〇項)べきことを指令した。そして、日本政府は右覚書に則り、同年八月一九日公布の政令第二三八号により、解散団体の財産はすべて国庫に帰属し、これを目的とする担保物権は消滅し(第三条)、法務総裁が原則として右財産を管理して、これを広く公告して入札の方法により、売却し(第七条)、右財産のうちの現金、預貯金又は財産管理による収益金若くは売得金は、解散団体財産収入金特別会計の歳入とし(第一三条)、解散団体に対する債権者にはその債権を一定期間内に申し出させて(第一五条)、そのうち法務総裁が承認した解散団体の債務は法務総裁が前記特別会計に属する収入金から支払う(第一四条)こととされた。そうすると、ここに勅令第一〇一号による団体の解散後の財産関係の整理がより明確にされたわけであり、これは要するに、解散団体の積極財産を国庫に帰属させ、国家機関がその売得金等から右団体の債務を支払うという方式であるから、その手続は形式上民法所定の法人の清算手続などとはかなり異るものの、実質においては、解散団体の清算そのものにほかならず、ただこの場合は、軍国主義的勢力等の除去を徹底的に行うために、当該団体の定める者ないしは理事者等に自主的な清算の執行を委ねずに国家機関がこれに代つて強制的に清算手続をなすに過ぎないものとみるべきである、とすれば、前記解散団体が法人のばあいには、解散後も右清算の目的の範囲内で存続するものといわねばならない。
三、したがつて、法人が昭和二一年勅令第一〇一号に基き解散させられたばあいには、以後その清算が結了するまで清算法人として存続するものと解すべく、同勅令に基き解散した原告は、解散と同時に消滅することなく、現在なお、清算法人として存続しており、その当事者能力に欠けるところはないものというべきである。(鑑定人入江啓四郎のこの点に関する鑑定意見は採用できない。)
第二、請求原因事実の存否
原告主張の請求原因事実のうち、以下の事実については、当事者間に争いがない。
一 原告は、旧日本海軍の高等武官及び高等文官並びにかつてそれらの者であつた人々により組織された、「海軍に関する学術の研究を為し、又社員相互の友誼を敦うし、及びその便益を図る」ことを目的とする財団法人である。
二 ところが、前叙のとおり、原告は昭和二〇年一二月三一日に解散し、同二一年二月一三日に解散登記を了したところ、総司令部が同年一月四日付覚書(AG〇九一)を以て、日本政府に対し「或る種の政党、協会、結社及び其他の団体」を解散さすべき旨を指令し、同年八月二日原告を右解散さすべき団体の中に追加指定してきたので、日本政府は同二一年勅令第一〇一号に基き、同年八月二九日付内務省告示第一二四号を以て、原告を解散すべき団体として追加指定した。そしてまた、前叙のとおり、総司令部は、同二三年三月一日付覚書(AG三八六・七号)を以て、解散された原告の所有に属する本件不動産を含む一切の財産に関する権利を同日附を以て日本政府に移転すべき旨指令し、日本政府は、右覚書に則り同年八月一九日公布した政令第二三八号によつて、原告の本件不動産を含む一切の財産は国庫に帰属するものとした。
三 しかして、被告ロツジ協会が、昭和二五年六月三〇日被告ら補助参加人たる国から本件不動産を代金八、〇〇〇万円で買受け、同年八月二五日東京都知事の嘱託によつて、その旨の所有権取得登記を経由した。
四 ところが、被告ロツジ協会は、昭和二七年一〇月二日解散して清算法人となり、同三〇年一〇月二五日その頃新たに設立されようとしていた被告メソニツク協会に対し、本件不動産を含む一切の財産を寄贈し、同被告は翌三一年一月七日設立登記を了え、同三二年一一月五日本件不動産の各所有権取得登記を経由し、現に本件不動産を占有している。
第三 本件不動産の国庫帰属の適否
ところで、前項においてみた政令による原告所有の本件不動産の国庫帰属が適法であるか否かについて、検討しなければならない。
一 ヘーグ条約とその法的性格
一九〇年の第二回ヘーグ平和会議において採決された陸戦法規条約の第四六条第一項は、「家ノ名誉及権利、個人ノ生命、私有財産並宗教ノ信仰及其遵行ハ、之ヲ尊重スベシ。」と規定して、私有財産の尊重をその中に謳い、さらに、同条第二項は「私有財産ハ、之ヲ没収スルコトヲ得ズ。」と規定して、とくに私有財産の没収禁止を明らかにしている。
(一) ところで、右条約の協定第二条は、本条約の規則・規定が「交戦国カ悉ク本条約ノ当事者ナルトキニ限り、締約国間ニノミ之ヲ適用ス。」とのいわゆる総加入条項を挿入しているので、被告らおよび同補助参加人は、第二次世界大戦における連合国の中にはこの条約の未批准国があることを理由に、右条約が同大戦に関しては適用されない旨主張する。
なるほどヘーグの陸戦法規条約は、それが採択された当時現存した戦争に関する一般の法規と慣例とをより精確にし、或いは修正しようとしたものである(同条約前文第一項)が、こと占領地内における私有財産の尊重の慣行に関しては、近世に入つて、私有財産尊重の観念が認められるにともない、徐々に普及して行き、既に一九世紀初めには多くの文明国によつてこれが承認されて、国際慣習法上の原則として確立されるに至つていたため、かような国際慣習法を確認し宣明するという意味をもつにとどまり、したがつて、前示第四六条の規定するところは、右条約自体とは離れても慣習法化した独自の効力を有するのである。とすればたとえ総加入条項によつて、右条約そのものの適用が排除されるとしても、そこに規程された私有財産尊重、没収禁止の諸原則は、第二次世界大戦に関しても適用をみると解するのが相当である。<証拠省略>
(二) ところで次に、ヘーグの陸戦法規条約(これによつて確認された国際慣習法を指す、以下同じ)が、具体的に第二次世界大戦における連合国の日本占領に適用されるか否かに関する問題として、右占領がヘーグ条約のいう「占領」に該当するかどうか、および連合国軍最高司令官による解散団体の財産の国庫帰属の指令がヘーグ条約の規定する「没収」に該当するかどうかについて判断するに先だち、ここで、同条約第四六条において確認された私有財産尊重、没収禁止の原則が、他の全ゆる条約その他国際上の合意に優先して適用されるべきものであるか否か、即ち、これらの原則が国際法上の強行法規か否かについて検討する必要がある。
国内法秩序の下では、法が組織的、統一的に定立され、かつ公権力の背景の下に組織的、統一的に適用されるのであるから、個々の諸主体間の合意を法の規定に反するものとして無効とする強行法規の存在が可能である。ところが国際社会は、国際連盟や国際連合にみられるように、最近著しく組織化されてきてはいるものの、一般的な法規が多数決によつて定立され、これが全体の国々を拘束することを認めるまでには立ち至つていない。このような国際法秩序の下においては、法は基本的には法主体たる国家間の明示(広義の条約)ないしは黙示(国際慣習)の合意に基いて成立し、その合意をなした国々に及ぶにとどまるというほかはない。そして、その合意相互の間においては、とくに効力の優劣はないため、多数国間の一般的合意(一般法規)と同時に、同一事項についてこれと矛盾し、或いは相排斥し合う特定国間の特別の合意(特別法規)があるばあいには、一般法規が強行法規として特別法規を排除することはなく、ただ特別法が一般法を破るという法則がここでも妥当するにすぎない。したがつて、国際法は、原則として、補充法規的な性格をもち、任意法規と考えざるをえないのである。<証拠―省略>
もつとも、国際法も、法である以上、文明国において確立されている全ゆる法体系を支配する理念ないし基本的価値ともいうべき「公の秩序、善良の風俗」に反する国家間の合意にまでその法的効力を認めることはできないといい得るであろう。<証拠―省略>したがつて、特定国間において、例えば、一定の人種を虐殺するとか、一地域の病院を一切閉鎖するとかを合意しても、これは明らかに国際法上の「公序良俗」に反するものとして無効といわざるを得ない。しかしながら、私有財産の尊重、没収禁止の原則は、前述のように近代法における重要な原則ではあるにしても、国内法上、国家体制のいかんによつては制度的に私有財産を否認し、または制限するものがあるし、資本主義国の場合にも、公共の目的のために私有財産に制限が加えられ、或いはその剥奪没収が行なわれることがあり得るのであるから、右の原則をおよそ文明国において認められている至上の法理念の一つということはできない。また、国際法上も海上では私有財産が大幅に捕獲没収の対象となるのであり、これに反して、とくに占領地の陸上私有財産の没収が禁止されるのは、これらの財産は、住民の生活に直接関連するものが多いため、その没収により住民の生活を圧迫混乱させ、かえつて、占領軍の立場を困難にし、軍事的にも得る所が少ないばかりでなく、占領地では没収以外の手段により私有財産を占領軍のために利用できるし、また没収までしなくともそれらが敵国の戦力に利用されるのを容易に防止しうると考えられているからにほかならない。そうすると、国際法上私有財産が尊重され、その没収が禁止されているのは、超越的な法理念に由来するものではないと解せられ、したがつて、この原則は、いまだ国際法上の公序良俗と称することはできず、これに反する国家間の合意の効力を排除するものと考えることはできないのである。<証拠省略>
二、降伏文書と占領軍の権限
ヘーグ陸戦法規条約において成文化された私有財産尊重、没収禁止の原則が強行法規でないことが前項において明らかにされた。したがつて、右の一般法規に対して、これと異る或いはこれに反する特別の協定がなされ、特別法規が成立するとすれば、後者が前者に優先して適用されるわけである。
そこで進んで、日本が第二次世界大戦において、連合国に降伏するに際し取り交された降伏文書を、右に述べた意味での特別の協定とみることができるかどうかについて考察する。
(二) 降伏文書の法的性格
第二次世界大戦における連合国による日本の占有は、日本が、連合国によつて提示されたポツダム宣言の条項を正式に受諾することを表明した降伏文書に基づいて行なわれたことは明らかである。そして降伏文書は、形式上は、一方、日本を代表する外務大臣および参謀総長が署名し、他方、連合国を代表する連合国最高司令官以下各代表が署名し、実質的には、日本軍の連合国に対する降伏を約するとともに、日本と連合国との間の戦闘を停止するための条件について約したものである。したがつて、これは、日本と連合国との合意に基いて成立した国際的協定としての性質をもつているものといわねばならない。
もつとも、降伏文書の内容そのものは、連合国によつて一方的に決定され、日本としてそれをそのまま受諾すべきことを要求されたものであつて、アメリカ合衆国政府の昭和二〇年九月六日付マツカーサー元帥宛通達においても、「われわれと日本との関係は、契約的基礎の上に立つているのではなく、無条件降伏を基礎とするものである。」「ポツダム宣言に含まれている意向の声明は、完全に実行される。しかし、それは、われわれがその文書の結果として日本との契約的関係に拘束されていると考えるからではない。」とされている。そして右通達において、連合国と日本との関係が契約的基礎の上に立つていないというのは、降伏文書が対等の地位にあるものの間の取引的関係を基礎にした通常の国際協定と異ることを指摘したものといえよう。しかし、国際法においては、強制による協定も、国際協定として有効なものと認められるのであるから、たとえ、降伏文書が連合国の強力な軍事力を背景とする要求を日本が受諾するという形で締結されたものであつたとしても、その国際協定たる性質を否定することはできないのである。<証拠省略>
(二) 降伏文書に基づく連合国最高司令官の権限
降伏文書およびその内容として採り込まれたポツダム宣言の中には、占領地における私有財産尊重、没収禁止の原則を直接排除する規定はない。しかし、日本は、ポツダム宣言の条項を受諾し、かつ降伏文書に調印することにより、連合国を代表する最高司令官が右条項を含む「降伏条項ヲ実施スル為適当ト認ムル措置ヲ執ル」権限を有し、かつ、日本が右権限に従属することを承認した(降伏文書第八節)のである。
他方、ポツダム宣言は、基本的人権の尊重が確立されるべきこと、および連合国が日本人を奴隷化する意図を有しないこと(同宣言第一〇項)を明らかにしているのであり、また、一般に降伏文書のような特別の合意は、降伏国の利益のために制限的に解すべきものとされている(鑑定人高野雄一の鑑定の結果参照)ことに鑑みれば、降伏文書に基づく最高司令官の前記降伏条項実施の権限は、一般国際法上認められている被占領国民の権利ないしは自由を制限したり、或いは剥奪したりする点に関する限り全くの自由裁量と考えるべきではなく、その目的を達するために必要な行使、即ち客観的に降伏条項の実施に必要な限度においてのみ、その行使が許されるものと解されるべきである。
ところで、ポツダム宣言は、日本の降伏条件の冒頭において、「吾等ハ無責任ナル軍国主義が世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序ガ生ジ得ザルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本国国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙ニ出ヅルノ過誤ヲ記サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレザルベカラズ」(第六項)とし、次いで、「右ノ如キ新秩序ガ建設セラレ且日本国ノ戦争遂行能力ガ破砕セラレタルコトノ確証アルニ至ル迄ハ連合国ノ指定スベキ日本国領域内ノ諸地点ハ吾等ノ茲ニ指示スル基本的目的ノ達成ヲ確保スル為占領セラルベシ」(第七項)と規定して、日本における軍国主義が徹底的に除去さるべきことを強調している。さらに米国は、降伏文書の調印後間もない昭和二〇年九月二二日連合国最高司令官に宛て、「初期の対日方針」なる文書を以て、降伏条項の実施方法を指示したが(なお、この基本方針は、その後日本管理に関する連合国の最高機関たる極東委員会の昭和二二年七月一一日決定「降伏後の対日基本政策」において、そのままの形で確認的に規定されている。)、その第三部「政治篇」の第一項「武装解除および非軍事化」には、日本の完全な武装解除、軍事的ないし準軍事的組織の解消、軍国主義および好戦的国家主義の積極的代表人物であつた者の公職追放などとともに、「極端な国家主義的又は軍国主義的な社会上、政治上、職業上および商業上の団体および機関」を「解消」すべきことが示されている。右は米国ないしは連合国の、連合国最高指令官に対する内部的指令であつて、連合国と日本との国際的約定でないことはいうまでもないが、連合国によつて起草されたポツダム宣言における抽象的な降伏条項の具体的内容を明らかにすべき重要な資料とみることができよう。そして以上を総合すれば、ポツダム宣言および降伏文書に規定された降伏条項の一つである日本における軍国主義勢力の永久的除去は、その実施方法の一つとして軍国主義的団体の解消を予定し、軍国主義の永久的根絶という高次の目的を達成するためには、単にそのような団体を解散させるだけではいまだ充分とはいえず、その再起の芽をもつみとるために解散した団体の財政的基礎をも奪うことまで必要としていたと解すべきである。
してみれば、連合国最高司令官が総司令部覚書により、海軍に関する学術の研究等をする団体である原告を叙上の如き団体に該るものとして解散させ、その所有する本件不動産を国庫に帰属させたことは、第二次大戦における連合国の日本占領の性質がヘーグ条約にいう「占領」に該当するかどうか、また上記覚書に基づく解散団体の国庫帰属が同条約の「没収」に該るかどうかの判断を埃つまでもなく、ポツダム宣言の降伏条項の実施に必要にして適当な措置ということができ、これは降伏文書によつて最高司令官に付与された権限の範囲内に属するものとして法的根拠を有し、国際法上何ら違法な行為ではないと考えるべきである。
(この点に関する鑑定人田畑茂二郎の鑑定の結果には、同調できない。)
第四 結 論
以上の次第で、本件不動産の所有権は、国際法上根拠のある総司令部の指令に基づき、前記政令によつて適法に国庫に帰属し、その結果、原告は、右不動産の所有権を失つたものといわざるをえない。したがつて、原告の本件不動産所有権を前提とする本訴請求は、いずれも爾余の点につき判断するまでもなく、失当である。
よつて、原告の被告らに対する請求は、こべてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、を適用して、主文のとおり判決する。(中田四郎 加藤和夫 磯部喬)